湿疹・皮膚炎(一般)
湿疹(しっしん)(皮膚炎)とはどのような病気ですか?
湿疹は、皮膚にかゆみを伴って、発赤、皮膚のガサガサ(落屑(らくせつ))、ブツブツ(丘疹)がみられるもので、「皮膚炎」とも呼ばれます。状態によっては小さな水ぶくれ(小水疱)、小さな膿んだブツブツ(膿疱)、汁がでるようなジクジクした状態(湿潤)、かさぶたがみられたり、時間がたって湿疹が慢性化すると皮膚が厚くなって皮膚の溝が深くみられたり(苔癬化(たいせんか))、色が濃くなったり(色素沈着)、逆に色が抜けて白くなったり(色素脱失)します。
「湿疹の原因は? 湿疹にはどのような種類がありますか?」
湿疹は、多岐にわたる原因で生じますが、刺激物質やアレルゲン(花粉、ハウスダスト等)などの外的な因子と皮膚の乾燥状態、発汗の状態、アトピー素因、全身の健康状態などの内的な因子の双方が影響してさまざまな形や程度で生じます。湿疹は、病気の原因によって、以下のように分類されています。ただし、実際には単一の湿疹ではなく、同じ患者様でもいくつかの種類の湿疹が混在していたり、時期によって変化することも多くあります。
①アトピー性皮膚炎
慢性に湿疹・皮膚炎を繰り返し、既往歴や家族歴に喘息、花粉症、血液中のIgEが高値といったアトピー素因がみられ、フィラグリンの発現低下や細胞間脂質のセラミドの低下によって皮膚のバリア機能が低下し、アレルゲンが皮膚に侵入しやすくなることからアレルギー反応を起こしやすくなります。顔、耳、首、肘・膝の内側などに左右対称性に皮膚炎がみられることが特徴です。詳しくは「アトピー性皮膚炎」の説明を参照。
②かぶれ(接触性皮膚炎)
刺激物質またはアレルギー反応を起こす物質の接触によっておこるかぶれで、通常は接触した皮膚の部位に皮膚炎がみられます。まれに光が関与したり、皮膚炎が全身にみられることもあります。詳しくは「かぶれ(接触性皮膚炎)」の説明を参照。
③脂漏性(しろうせい)皮膚炎
皮脂(ひし)の分泌が盛んな部位(頭皮、顔、特に眉毛・眉間、鼻の周囲、胸、背中、わき、股)に皮膚のガサガサ(鱗屑(りんせつ))と赤み(紅斑)がみらます。皮脂を好むマラセチアが炎症に関与しています。「脂漏性皮膚炎」の説明を参照。
④乾燥肌・皮脂欠乏性湿疹
乾燥肌は、ドライスキンや乾皮症とも呼ばれ、皮膚の角層の水分保持が低下して皮膚がガサガサした状態になります。乾燥肌を掻き壊す行為などの外的な刺激などによって赤み、かさぶたなどの炎症が加わると皮脂欠乏性湿疹になります。「乾燥肌・皮脂欠乏性湿疹」の説明を参照。
⑤異汗性湿疹(いかんせいしっしん)・汗疱(かんぽう)
汗疱(かんぽう)は、手や足に小さな水ぶくれ(水疱)ができる皮膚の病気です。異汗性湿疹(いかんせいしっしん)は、汗疱と同義語として扱われることもありますが、汗疱でみられる水ぶくれに加えて、赤み(紅斑)や皮膚のガサガサ(落屑)などの湿疹反応が明らかな皮膚の状態です。「異汗性湿疹・汗疱」の説明を参照。
⑥手湿疹
いわゆる手あれの状態で、繰り返しの手や指への刺激、頻繁な手洗い・消毒などで生じます。指や手のひらに乾燥、角化、赤み、水ぶくれ、亀裂などを生じ、ひどくなると爪の変形も伴います。
⑦慢性単純性苔癬(まんせいたんじゅんせいたいせん)
Vidal(ビィダール)苔癬(たいせん)とも呼ばれます。慢性化した湿疹の一つで、衣服によるこすれや金属のかぶれなどによって首の後ろなどにかゆみとともに皮膚が厚くなってゴワゴワとしたシワが明瞭化する状態です。
⑧乳児湿疹
乳児期のお子様にみられる湿疹・皮膚炎の総称で、さまざまな原因でみられます。脂漏性(しろうせい)皮膚炎によるものは、生後2週間前後くらいから頭や顔を中心に黄色いかさぶたと皮膚のガサガサ、赤みがみられ、通常、生後1年くらいで症状はおさまります。オムツ皮膚炎、離乳食や口をなめる唾液の刺激で生じることもあります。また、長引く場合にはアトピー性皮膚炎や食物アレルギーで生じている場合もあります。
⑨顔面単純性粃糠疹(がんめんたんじゅんせいひこうしん)
いわゆる「はたけ」とも呼ばれ、学童期のお子様の顔などに細かいカサカサした円形に近い色が抜けたような斑(脱色素斑)を生じます。アトピー性皮膚炎のお子様にみられることもありますが、通常多くは自然によくなることが多いです。
⑩貨幣状湿疹(かへいじょうしっしん)
円形に近い貨幣状の赤い斑がみられ、そのまわりにブツブツやジクジクした浸出液、かさぶたなどを伴うことが多い湿疹です。すねなどの下肢、腰、おしり、お腹、背中などにみられることが多く、虫刺され、かぶれ(接触皮膚炎)、乾燥肌・皮脂欠乏性湿疹、アトピー性皮膚炎などが悪化してみられることが多いです。
⑪眼瞼炎(がんけんえん)
目のまわりにできる炎症でかゆみやガサガサを伴う皮膚炎・湿疹によるものと痛みや腫れを伴うことが多い細菌やウイルスによる感染性ものに大きく分けられます。皮膚炎・湿疹による眼瞼炎は、目薬(点眼剤)・化粧品などによるかぶれ(接触皮膚炎)やアトピー性皮膚炎・花粉症による皮膚炎などがあります。
⑫花粉症皮膚炎
スギやブタクサなどの花粉に対してのアレルギーによる花粉症の患者様にみられる皮膚炎で、かゆみを伴った赤み、ガサガサを生じます。鼻のまわりや目のまわり(眼瞼炎)に生じることが多いですが、肌のバリア機能の低下によって顔以外の皮膚に生じることもあります。
⑬うっ滞性皮膚炎
下肢の静脈瘤(じょうみゃくりゅう)や静脈の血の流れのうっ滞によって生じ、下腿(膝下の脚)にむくみを伴って赤み、ガサガサ、浸出液、色素沈着などがみられる病気です。長時間の立ち仕事などで悪化することがあります。
⑭自家感作性皮膚炎
⑮虫刺され・蜂刺され・虫による皮膚炎
詳しくは以下で解説しています。虫刺され・蜂刺され・虫による皮膚炎
⑯痒疹
詳しくは以下で解説しています。痒疹
⑰かゆみ・皮膚そう痒症
詳しくは以下で解説しています。かゆみ・皮膚そう痒症
「湿疹の診断と治療は?」
湿疹の原因と種類は上記のように多岐にわたりますので、状態に応じて診断して治療します。同じ患者様でもいくつかの湿疹が混在していることもあり、例えば、アトピー性皮膚炎の患者様では目のまわりに花粉症皮膚炎、手には手湿疹や異汗性湿疹がみられ、すねには貨幣状湿疹がみられこともありますので部位によって湿疹の状態にあわせて治療します。赤み、水ぶくれ、かさぶたなどの湿疹による炎症が強い場合にはステロイドの外用(塗り薬)で治療し、かゆみがある場合には抗ヒスタミン薬内服(飲み薬)を併用します。また、乾燥肌を合併していることも多いのでそのような場合には保湿剤も併用して治療します。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎とはどのような病気ですか?
アトピー性皮膚炎とは、アトピー素因(アレルギー性の喘息、鼻炎、結膜炎、皮膚炎)に基づく病態で、フィラグリンの発現低下や細胞間脂質のセラミドの低下によって皮膚のバリア機能が低下し、さまざまな刺激因子が作用して全身の湿疹・皮膚炎を繰り返す皮膚の病気です。多くは乳幼児の年齢までに発症することが多いですが、小児期から大人になってから発症することもあります。
アトピー性皮膚炎の診断と検査は?
赤み、がさがさ・ジクジクなどを伴う皮膚炎・湿疹がおでこ、目・耳のまわり、首、ワキ、手足などの内側などに左右対称性にみられます。血液検査で、好酸球数の増加、非特異的IgE値の増加がみられ、ダニやハウスダスト等の特異的IgE検査で陽性となることが多いです。どんな抗原に対してアレルギー反応が出現しやすいか血液検査で体質の傾向を調べることも可能です。
アレルギーにはどのような種類がありますか?
皮膚症状を起こすアレルギーにはさまざまありますが、頻度が高いアレルギーとしては数分以内に誘発されることが多い即時型反応を生じるⅠ型アレルギーと数日以降に反応がでる遅延型反応を生じるⅣ型アレルギーがあります。
アレルギーの原因は? どのような病気がありますか?
Ⅰ型アレルギー(即時型アレルギー)はマスト細胞という細胞が関与するアレルギーで、アレルギーの原因となる抗原(アレルゲン)に暴露後5~15分で反応が起こります。表面にIgEという抗体を結合したマスト細胞が抗原と反応することで、マスト細胞からヒスタミンやロイコトリエンといった化学伝達物質が遊離されます。これらの物質が血管の透過性を亢進させて浮腫(むくみ)を起こし、血管から皮膚へ好酸球を誘導して炎症を起こし、皮膚のかゆみ・じんましんや鼻汁を生じます。ひどくなると気道の粘膜が浮腫を起こして閉塞し、呼吸困難症状を起こしたり、血管が広がり血圧が低下し、重症例ではアナフィラキシーショックを起こすことがあります。Ⅰ型アレルギー(即時型アレルギー)の代表的な疾患は、じんましん、花粉症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息などがあります。特定の花粉にアレルギーがある人は特定の食物に対してもアレルギー症状が出現することがあることもあり、注意が必要です。(例:スギ、ヒノキとトマト、シラカンバとモモなど)また、アトピー性皮膚炎では慢性湿疹の発症はⅠ型アレルギー以外の関与もありますが、IgEが強く関与しています。
Ⅳ型アレルギー(遅延型アレルギー)は、アレルゲンを認識するT細胞という細胞と抗原の間の反応によって炎症が起こるもので、一度感作が成立すると、2回目以降にアレルゲンに暴露された際にアレルゲンを認識した抗原提示細胞を介してメモリーT細胞が皮膚内で活性化し、48時間後をピークに炎症が誘発されます。金属や毛染めの成分などによるアレルギー性接触皮膚炎、ツベルクリン反応などがⅣ型(遅延型)アレルギー反応になります。
アレルギーの検査はどのようなものをやっていますか?
当院では、血液検査で食べ物、花粉、ハウスダスト、ダニ、カビ、ペット(イヌ、ネコ)、ラテックスなどに対するアレルギー検査とアトピー性皮膚炎で上昇することが多い好酸球、TARC、総IgE数などを調べることができます。
赤み、がさがさ・ジクジクなどを伴う皮膚炎・湿疹が長期に続いている場合は、アレルギー・アトピー素因が関与していることがあります。これらのアレルギーによる症状は幼少期から出現することもあれば、大人になってから初めて発症することもありますのでどんな抗原に対してアレルギー反応が出現しやすいか血液検査で体質の傾向を調べることも可能です。また、金属アレルギーによる接触皮膚炎(かぶれ)に対して、原因となる金属を調べるためのパッチテスト(貼付試験)も行っております。なお、貼付試験は行える時季が限定されていますので一度ご相談ください。(血液検査によるアレルギー検査はいつでも施行可能です)
アトピー性皮膚炎の治療は?
アトピー性皮膚炎の治療は塗り薬の使用はとても大切になります。炎症の強い皮膚炎・湿疹がみられるときには強めのステロイドの塗り薬が必要になります。ステロイドと聞くと、肌が黒くなってしまうのではないかとかごわごわした酷い皮膚になってしまうのではないかと心配されたり、全身への影響も心配されてステロイドの塗り薬を使用するのに抵抗がある方がたまにいらっしゃいます。自己判断で塗る部位など誤った使い方をすると副作用を生じることもありますが、肌が厚くごわごわになるのは湿疹を慢性に繰り返して苔癬化という状態になったもので、肌が黒くなるのは湿疹による炎症後の色素沈着でステロイドの塗り薬の副作用ではありません。ステロイドの塗り薬を適切に使用することで苔癬化を伴うごわごわした厚い皮膚のひどい湿疹・皮膚炎の病変部も改善する効果があり、湿疹による炎症をなるべく抑えることで炎症後色素沈着を最小化させる効果もあります。副作用を恐れてステロイドの塗り薬をしないと余計に皮膚炎がひどくなって悪化してしまいことがありますので、症状の重症度に応じて適切なランクのステロイド外用剤を選択して治療を行うことが重要です。部位や症状によってはタクロリムスの塗り薬、JAK阻害剤の塗り薬も有効です。また、アトピー性皮膚炎に伴う乾燥肌(ドライスキン)に対して保湿剤を使用してスキンケアをすることも大切です。保湿剤には、皮膚の表面の角層に水分を直接供給させるモイスチャライザー(ヘパリン類似物質など)と皮膚の表面を覆って水分の蒸発を抑えることで角層の水分を増加させるエモリエント(白色ワセリンなど)の2種類があります。剤型によって皮膚に塗ったときの使い心地には差異や患者様による好みもありますので保湿剤を使う時期、生活スタイルなどに合わせて適宜変更することも可能ですので詳しくはご相談ください。例えば、冬場では白色ワセリンやヒルドイドソフト軟膏などの軟膏基剤を使用し、夏場の汗をたくさんかく時期ではヒルドイドローションなどで治療するなど適宜使い分けることも有効です。通常、アトピー性皮膚炎は強いかゆみも伴いますので、かゆみを抑えるための抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬の飲み薬も効果があります。内服の飲み薬には効果の強さや持続時間にそれぞれ特徴がありますので、症状や患者様の生活スタイルに合わせて選択しています。重症の患者様には一時的にステロイド薬、免疫抑制薬などの飲み薬を併用することもあります。
「生活上、気をつけなければいけないことはありますか?」
ダニ、ハウスダスト(ほこり)、カビなど、肌への物理的な刺激(引っ掻く、擦るなど)、化学物質(石鹸、消毒液、金属など)、紫外線などが悪化原因となることがあるので日常の生活で注意が必要です。また、ストレスや疲労なども免疫に影響を及ぼし、アトピー性皮膚炎を悪化させるのでなるべく避けるように心がけることが大切です。当院ではライフスタイルに合わせた治療法の選択や塗り薬の使用法をご提案しておりますのでどうぞご相談ください。
アトピー性皮膚炎の治療の目標は、症状がないか、あっても軽微で日常生活に支障がなく,薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持できることになります。そのためには、薬による治療、外用療法・スキンケア、悪化因子の検索とそれに対する対策がとても重要になります。以下に治療薬の種類ごとに解説します。
① 抗炎症外用薬:炎症を抑える外用薬(塗り薬)
アトピー性皮膚炎の治療においては、まず塗り薬の使用・スキンケアがとても大切になります。炎症の強い皮膚炎・湿疹がみられるときにはステロイドの塗り薬が必要になります。ステロイドと聞くと、肌が黒くなってしまうのではないかとかごわごわした酷い皮膚になってしまうのではないかと心配されたり、全身への影響も心配されてステロイドの塗り薬を使用するのに抵抗がある方がたまにいらっしゃいます。自己判断で塗る部位や使用期間など誤った使い方をすると副作用を生じることもありますが、肌が厚くごわごわになるのは湿疹を慢性に繰り返して苔癬化(たいせんか)という状態になったもので、肌が黒くなるのは湿疹による炎症後の色素沈着でステロイドの塗り薬の副作用ではありません。ステロイドの塗り薬を適切に使用することで苔癬化を伴うごわごわした厚い皮膚のひどい湿疹・皮膚炎の病変部も改善する効果があり、湿疹による炎症をなるべく抑えることで炎症後色素沈着を最小化させる効果もあります。副作用を恐れてステロイドの塗り薬を使用しないと余計に皮膚炎がひどくなって悪化してしまいことがありますので、症状の重症度に応じて適切なランクのステロイド外用薬を選択して治療を行うことが重要です。ステロイド外用薬には軟膏、クリーム、ローション、テープ剤、シャンプー剤などの剤型があります。通常は乾燥症状が病態であるアトピー性皮膚炎に対しては軟膏を選択することが多いですが、皮膚炎の性状や部位などによって使いやすいものを選択します。たとえば、頭皮にはローションを、夏は塗りやすいクリームを、痒疹の部位にはテープ剤を選択することが多いです。
また、部位や症状によってはステロイド外用薬の他に、カルシニューリン阻害剤の塗り薬であるタクロリムス軟膏(プロトピックⓇ軟膏)、JAK阻害剤の塗り薬であるデルゴシチニブ軟膏(コレクチムⓇ軟膏)、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤の塗り薬であるジファミラスト軟膏(モイゼルトⓇ軟膏)も有効です。
最近は、皮膚炎・湿疹の悪化を繰り返す皮膚症状に対して、急性期の治療の後よくなった状態でも保湿外用薬によるスキンケアに加えて、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏を週に数回塗って治療を行うプロアクティブ(proactive)療法が推奨されており、皮膚炎・湿疹による炎症を生じたのみに抗炎症外用薬を使うリアクティブ(reactive)療法に比べ、皮膚の良い状態が保たれやすくなります。
② スキンケア・保湿剤の使用
アトピー性皮膚炎に伴う乾燥肌(ドライスキン)に対しては保湿剤を使用してスキンケアをすることもとても大切です。保湿剤には、皮膚の表面の角層に水分を直接供給させるモイスチャライザー(ヘパリン類似物質など)と皮膚の表面を覆って水分の蒸発を抑えることで角層の水分を増加させるエモリエント(白色ワセリンなど)の2種類があります。剤型によって皮膚に塗ったときの使い心地には差異や患者様による好みもありますので保湿剤を使う時期、生活スタイルなどに合わせて適宜変更することも可能ですので詳しくはご相談ください。例えば、冬場では白色ワセリンやヒルドイドソフト軟膏などの軟膏基剤を使用し、夏場の汗をたくさんかく時期ではヒルドイドローションなどで治療するなど適宜使い分けることも有効です。また、皮膚炎・湿疹が悪化し、浸出液が出るような部位には亜鉛華軟膏を塗ることも有用です。
③ 抗ヒスタミン薬の内服(飲み薬)
通常、アトピー性皮膚炎は強いかゆみも伴いますので、かゆみを抑えるための抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬の飲み薬も効果があります。内服の飲み薬には効果の強さや持続時間にそれぞれ特徴がありますので、症状や患者様の生活スタイルに合わせて選択しています。
④ 光線療法
塗り薬を使用していても治りにくい湿疹部には光線療法も有効です。当院ではエキシマライトによる光線療法を行い、湿疹の部位に局所的に照射をして治療を行っています。
⑤ ステロイド内服・シクロスポリン内服(飲み薬)
最重症期で短期間のみ使用することがあります。なお、シクロスポリン内服は16歳以上で連続投与する場合は12週間以内までの投与になりますが、最近は新しい治療薬の登場により使用する頻度は少なくなっています。
⑥ 生物学的製剤(抗体を使用した治療薬)の注射
中等症から重症のアトピー性皮膚炎の新しい治療薬として、寛解導入期にデュピクセント(デュピルマブ)などの生物学的製剤(抗体を使用した治療薬)を用いた注射の治療薬が使えるようになっています。大きな副作用が少なく使用しやすい特徴があります。(詳細は下記の「アトピー性皮膚炎の新しい治療薬について」を参照)
⑦ JAK阻害薬内服(飲み薬)
中等症から重症のアトピー性皮膚炎の新しい治療薬として、JAK阻害薬の内服(飲み薬)も登場し、使用できようになっています。サイトカインというアトピー性皮膚炎の炎症に関与する物質を抑制する薬剤です。免疫や他の臓器に影響することがあるので安全に投与するために投与前や投与中には採血やレントゲン検査などが必要になります。(詳細は下記の「アトピー性皮膚炎の新しい治療薬について」を参照)
アトピー性皮膚炎の新しい治療薬(生物学的製剤/JAK阻害薬)について
最近、中等症~重症のアトピー性皮膚炎に対して、抗体薬である生物学的製剤(皮下注射薬)やJAK阻害薬の内服薬(飲み薬)が登場し、通常の保険診療において使用できるようになっています。
① 生物学的製剤
- デュピクセント(デュピルマブ)
IL-4/IL-13 受容体に対するモノクローナル抗体製剤です。生後6ヶ月以上の小児および成人が適応です。投与方法は、初回は2本(600㎎)、それ以降は2週間に1回の頻度で1本(300㎎)皮下注射を行います。ご自宅での自己注射も可能な薬剤で、自己注射の指導もしております。保険診療3割負担の薬剤費は、初回35,265円、2回目以降1回分17,633円になります。 - ミチーガ(ネモリズマブ)
IL-31 受容体に対するモノクローナル抗体製剤で、かゆみに関連するシグナル物質を抑えることでアトピー性皮膚炎のかゆみを特に緩和させる作用があります。13歳以上の患者様が適応です。投与方法は、4週間に1回ずつ1本を皮下注射します。ご自宅での自己注射も可能です。保険診療3割負担の薬剤費は1回分35,154円になります。 - アドトラーザ(トラロキヌマブ)
IL-13に対するモノクローナル抗体製剤です。15歳以上の患者様が適応です。投与方法は、初回は4本(600㎎)、それ以降は2週ごとに2本(300mg)ずつ皮下注射します。新しい薬のため現時点では院内のみの注射になります(2024年2月現在)。保険診療3割負担の薬剤費は、初回52,731円、2回目以降1回分 35,154円になります。
生物学的製剤は、結膜炎などの副作用が出現することはありますが、全体的に副作用の頻度は少なく、基本的に投与前・投与中のスクリーニングのための採血検査、レントゲン検査などは不要で処方できます。
② JAK阻害薬内服(飲み薬)
アトピー性皮膚炎の炎症に関与するシグナル伝達のヤヌスキナーゼ(Janus kinase: JAK)を抑えるJAK阻害薬が登場し、中等症~重症のアトピー性皮膚炎に対して、リンヴォック(ウパダシチニブ)、サイバインコ(アブロシチニブ)、オルミエント錠(バリシチニブ)の3種類の内服薬が使用できるようになっています。
- リンヴォック(ウパダシチニブ)
JAK1阻害薬の内服薬です。12歳以上が適応で、1日15または30mgの内服量(毎日1日1回内服)で治療します(30mgは15歳以上の患者様で増量が可能)。保険診療3割負担の薬剤費は、15mg服用の場合1ヵ月(28日)で42,760円、30mg服用の場合1ヵ月(28日)で61,740円になります。 - サイバインコ錠(アブロシチニブ)
JAK1阻害薬の内服薬で、12歳以上が適応になります。投与量は1日100㎎または200㎎です(毎日1日1回内服)。保険診療3割負担の薬剤費は、100mg服用の場合1ヵ月(28日)で42,340円、200mg服用の場合1ヵ月(28日)で63,590円になります。 - オルミエント錠(バリシチニブ)
JAK1/JAK2阻害薬の内服薬です。15歳以上が適応で、1日4mgの内服量で治療し、患者様の状態に応じて2mgに減量します(毎日1日1回内服)。保険診療3割負担の薬剤費は、4mg服用の場合1ヵ月(28日)で44,270円、2mg服用の場合1ヵ月(28日)で22,760円になります。
上記のJAK阻害薬飲み薬はアトピー性皮膚炎に対して有効性の期待できる薬剤ですが、JAK阻害薬を安全に使用していただき副作用のリスクを最小限にするために投与前・投与中には注意事項があります。投与前に感染症のリスクや基礎疾患がないかどうかを確認するために血液検査や胸部レントゲンなどの画像検査が必要となっています。また、投与後も副作用のモニタリングのために定期的に血液検査や画像検査を行っています。なお、妊娠中の方、重篤な感染症にかかっている方、治療が必要な活動性の結核にかかっている方、血液検査で好中球数、リンパ球、ヘモグロビン値、血小板数に異常がある方、重度の腎機能または肝機能障害のある方、過去にJAK阻害薬にアレルギー反応を起こした方などは投与できません。その他、服用中のお薬のある方、肝炎ウイルスに感染していた方、生ワクチンを接種予定の方、感染症の方は注意が必要になります。安全に使用していただくために、投与前の診察時に確認をさせていただいておりますのでご不安なことがありましたらご相談下さい。
高額医療費の医療費助成制度について
上記の生物学的製剤の皮下注射およびJAK阻害薬の飲み薬は中等度から重症のアトピー性皮膚炎に対して効果が期待できる薬剤ですが、現時点では保険診療の3割負担の薬剤費でも高額の治療薬のため、以下の高額医療費制度などの医療費助成制度を使っていただくことをご案内しています。
- 高額医療費制度
医療機関や薬局の窓口で支払った1ヶ月間の医療費が一定額を超えた場合に、その分の金額が支給される制度です。同一の医療保険に加入する家族は自己負担額を合算して申請することができます。また、直近の12ヶ月間で同じ医療保険に加入している家族間(同一世帯)で高額医療費の支給を3回以上受けている場合は4回目からの自己負担限度額がさらに低くなります。お問い合わせ先:加入されている医療保険 - 医療費控除
1年間にかかった医療費の総額が10万円を超えた場合、確定申告の際に手続きを行うことで税金の一部が減額される制度です。お問い合わせ先:最寄りの税務署 - 付加給付
企業などの健康保険組合や共済組合などによって独自の給付制度を設けている場合は一定額を超えた分が付加給付として給付されます。お問い合わせ先:加入されている健康保険組合など - 自治体の医療費助成(高校生まで)
東京都など自治体によっては高校生まで所得制限なしで保険診療の医療費が無料になります。
乾燥肌(ドライスキン)・皮脂欠乏性湿疹
乾燥肌・皮脂欠乏性湿疹とはどのような病気ですか? どのような症状がみられますか?
乾燥肌は、ドライスキン、乾皮症とも呼ばれ、皮膚の一番表面である角層の水分保持が低下して皮膚がガサガサしたり、粗造になり、亀裂やかゆみを生じます。また、乾燥肌を掻き壊す行為などの外的な刺激によって赤み、かさぶたなどの炎症が加わって湿疹化したものを皮脂欠乏性湿疹と言います。
乾燥肌・皮脂欠乏性湿疹は何が原因で生じますか?
冬期の湿度低下、室内の乾燥化、石けんの頻繁な使用、加齢、アトピー性皮膚炎、薬剤(分子標的薬やニキビ治療の塗り薬等)などの影響によって乾燥肌となり、さらにかゆみを生じて外的な刺激により皮脂欠乏性湿疹となります。特にご高齢の患者様の湿疹は、乾燥肌が原因であることが多いです。
乾燥肌・皮脂欠乏性湿疹の診断・検査はどのようにできますか?
腰、背中、肩、お腹、すねの前面などにみられることが多く、かゆみを伴って皮膚のザラザラ、粗造、亀裂がみられますので、通常特別な検査を必要とせず診断できます。赤み、かさぶたなどの湿疹が首、肘や膝の内側、股などにみられる場合や全身にみられる場合には、単に乾燥肌のみではなく、アトピー性皮膚炎や薬疹など他の皮膚の病気の可能性も考えられますので血液検査を行うこともあります。
乾燥肌・皮脂欠乏性湿疹の治療は?
乾燥肌に対しては、保湿剤を使用して治療します。保湿剤には、皮膚の表面の角層に水分を直接供給させるモイスチャライザーと皮膚の表面を覆って水分の蒸発を抑えることで角層の水分を増加させるエモリエントの2種類があります。保湿剤の成分の白色ワセリンやスクワランなどはエモリエントとして働きます。ヘパリン類似物質含有の保湿剤などでは配合されるヘパリン類似物質やグリセリンなどの吸収性の高い水溶性成分がモイスチャライザーとして働き、同時に基剤として配合されている白色ワセリンはエモリエントとして働きます。剤型によって皮膚に塗ったときの使い心地には差異や患者様による好みもありますので保湿剤を使う時期、生活スタイルなどに合わせて適宜変更するかことも可能ですので詳しくはご相談ください。例えば、冬場では白色ワセリンやヒルドイドソフト軟膏などの軟膏基剤を使用し、夏場の汗をたくさんかく時期ではヒルドイドローションなどで治療することが多いです。また、かゆみが強い場合には抗ヒスタミン薬内服(飲み薬)を併用し、赤み、かさぶたなどがみられる皮脂欠乏性湿疹に対しては保湿剤に加えてステロイド外用(塗り薬)で治療します。
薬を塗るタイミングは? 薬をどのように塗ったらよいですか?
入浴後、可能であれば10分以内に、手のひらで保湿剤を伸ばして、塗る皮膚に刺激を与えないように優しく塗ってください。湿疹が悪化しないように、塗る際に擦り込みすぎたり、掻くように塗らないように注意してください。塗る量については、ステロイド外用剤はチューブからしぼり出したときに人差し指の第一関節分(約0.5 g程度)を大人の手のひらの2枚分の面積に塗って、軟膏・クリーム状の保湿剤であれば、さらにこの量よりも少し多めに塗るのが効果的です。皮膚が塗った軟膏で光る程度が適切な量です。
治療・生活上、注意すべきことはありますか?
乾燥を防ぐことがとても大切になりますので、過度な暖房の使用、入浴時の石けん・シャンプーの過度の使用などに注意する必要があります。また、アトピー性皮膚炎の患者様ではもともと乾燥肌の傾向がありますので冬季以外の時期も保湿剤の使用が大切です。皮膚が乾燥肌の状態となるとかゆみを生じるのでつい掻きたくなりますが、掻き壊してしまうと皮脂欠乏性湿疹を生じ、改善するまでさらに時間を要してしまいますので意識的に掻かないように心がけていただくことも大切です。
異汗性湿疹・汗疱
異汗性湿疹(いかんせいしっしん)・汗疱(かんぽう)とはどのような病気ですか? どのような症状がみられますか?
汗疱(かんぽう)は、手の指や足の指に小さな水ぶくれ(水疱)ができて、ひどくなると手のひら、足の裏にもみられ、通常左右の両側にみられる皮膚の病気です。異汗性湿疹(いかんせいしっしん)は、汗疱と同義語として扱われることが多いですが、汗疱でみられる水ぶくれに加えて、赤み(紅斑)や皮膚のガサガサ(落屑)などの湿疹反応が明らかな皮膚の状態を指すことが多いです。異汗性湿疹・汗疱は強いかゆみを生じることが多く、指先や足の裏では痛みとして感じられることもあります。まれにひどくなると手足のみでなく、全身に皮膚の炎症が拡大する自家感作性(じかかんさせい)湿疹(しっしん)が起こることもあります。
異汗性湿疹・汗疱は何が原因で生じますか?
異汗性湿疹・汗疱は、夏季や季節の変わり目に生じることが多いです。原因は、汗と関係なく生じることもありますが、病態としてこの病気の患者様の一部では、汗の管の開口部が角化でつまってしまい汗の排出障害を生じるために炎症が起きることがわかっています。また、金属アレルギーが関連してみられることもあります。
異汗性湿疹・汗疱の診断・検査はどのようにできますか?
汗疱は、通常は視診のみで手または足の指(特に側縁)、手のひら、足の裏にみられる小さな水ぶくれ(水疱)から診断されます。また、特に水疱に加えて赤み、ガサガサが目立つ場合には異汗性湿疹と診断されます。ただし、これらの疾患は同一・類似の病気で時期により炎症の程度も異なるため厳密には区別できません。異汗性湿疹・汗疱に似たような手足に水ぶくれやガサガサ、赤みを生じる病気として、手足白癬(水虫)、掌蹠膿疱症、水疱性類天疱瘡など他の皮膚の病気もありますので、必要に応じて血液検査、顕微鏡検査、生検などの検査をすることもあります。また、症状がひどく金属アレルギーの関与が疑われる場合には金属アレルギー検査を施行することもできます。
異汗性湿疹・汗疱の治療は?
症状の軽い汗疱でかゆみもない場合には、汗の管の開口部につまっている角化を抑えるための尿素製剤やガサガサになった皮膚を保護するための保湿剤の外用(塗り薬)で治療し、皮膚のガサガサ、赤みがひどい場合には、炎症を抑えるためのステロイド外用(塗り薬)で治療します。また、かゆみが強い場合には、抗ヒスタミン薬内服(飲み薬)も併用します。手足の異汗性湿疹・汗疱が悪化して全身に発疹が拡大する自家感作性湿疹を生じた場合には、一時的にステロイド内服(飲み薬)を併用することもあります。また、症状がひどい場合や長期にみられる場合には、紫外線療法も有効です。
治療・生活上、注意すべきことはありますか?
異汗性湿疹・汗疱は、症状が一度よくなっても繰り返し再発することがありますので毎日の塗り薬のケアが大切になります。また、日常の物理的・科学的な刺激も悪化原因となりますのでなるべく避けるよう注意が必要です。金属アレルギーが判明している患者様では、食事で摂取する金属についても極力減らすようにすることも有効です。
かぶれ(接触皮膚炎)
かぶれ(接触皮膚炎)とは何ですか? どのような症状がみられますか?
皮膚にかぶれを生じる接触皮膚炎は、自己の組織でない外来性の刺激物質やハプテンと呼ばれる低分子の抗原が皮膚に触れることによって生じます。接触皮膚炎が起きると、皮膚の表面(表皮)に強いかゆみやヒリヒリした刺激感を伴って赤い斑(紅斑)、ブツブツ(丘疹)、水ぶくれ(小水疱)などがみられジクジクしたり、時間がたつとごわごわした硬い皮膚(苔癬化(たいせんか))になる湿疹と言う炎症反応を生じます。
かぶれ(接触皮膚炎)にはどのような種類がありますか?
接触皮膚炎は、大きく(1)刺激性と(2)アレルギー性に分類されます。さらに、特殊な接触皮膚炎として(3)光接触皮膚炎、(4)全身性接触皮膚炎があります。
- 刺激性接触皮膚炎は、アレルギー体質でない人も誰もが皮膚への刺激によって起こるかぶれで、刺激物質や摩擦物質が皮膚の防御能力を超えて作用すると皮膚の一番表面の角層のバリア障害と炎症を起こします。洗剤、化学物質(フッ化水素、セメント、灯油、過酸化水素など)、衣類や紙などの摩擦、薬品、植物由来品などさまざまなものが刺激物質となります。
- アレルギー性接触皮膚炎は、ハプテンと呼ばれる微量の低分子の抗原が皮膚から侵入して蛋白質と結合し、感作されると起こるかぶれです。刺激性のかぶれと異なり、抗原に感作されたアレルギーのある人だけにかぶれが起こります。
- 光接触皮膚炎は、光の存在下に誘発されるかぶれで、顔、首、胸の上部、手の甲などの露光部位で原因物質が塗布されて日光が当たると発赤などのかぶれ症状を起こします。
- 全身性接触皮膚炎は、感作された抗原が全身の体内に取り込まれることで全身に皮膚炎を生じるかぶれです。また、感作抗原が皮膚に反復して接触することで、接触皮膚炎症候群と呼ばれる皮膚炎が抗原の接触範囲を超えて全身にかぶれを起こすことがあります。
かぶれ(接触皮膚炎)を起こすものにはどのようなものがありますか?
かぶれ(接触皮膚炎)を起こす原因にはさまざまなものがあります。日用品では、ヘアダイ・洗髪剤、衣類(ホルムアルデヒド)、眼鏡(染料)、ゴム手袋、化粧品では、香料、パラベン、ホルムアルデヒド、ホルマリン、ラノリン、紫外線吸収剤、植物・食物では、イラクサ、ニンニク、アロエ、キウイ [刺激性]、ギンナン、キク、ウルシ、サクラソウ [アレルギー性]、金属では、ニッケル(バックル、腕時計、アクセサリー、コイン)、コバルト(メッキ、セメント)、クロム(革製品、塗料、印刷)、医薬品では、フラジオマイシン・ゲンタマイシン、イミダゾール系、ブフェキサマク・イブプロフェン、リドカイン、ジフェンヒドラミン・メントール、点眼薬、消毒薬、アズレン [アレルギー性]、ケトプロフェン・ピロキシカム [光接触皮膚炎]、坐薬・膣剤 [全身性接触皮膚炎]、職業性では、農薬、酸、アルカリ、フッ化水素、セメント、灯油、過酸化水素など [刺激性]、金属、レジン、ゴム、合成洗剤、消毒薬 [アレルギー性]、などがかぶれ(接触皮膚炎)を起こす原因としてみられることが多いです。
かぶれ(接触皮膚炎)の診断は? 原因を調べるための検査法はありますか?
通常の湿疹の治療をしているのに治りが悪い、症状がよくなっても再発を繰り返す場合にはかぶれ(接触皮膚炎)の可能性を考えます。そのような場合には、日常生活や職場で誘因となりうる物質や刺激を問診で確認し、検査を行わなくても症状の時間経過や部位・分布でかぶれの原因となるものをある程度同定できることがあります。また、アレルギー性の接触皮膚炎で原因となる物質(アレルゲン)を同定するために、パッチテスト(貼付試験)と言う検査を行うことがあります。これはあらかじめ原因と考えられる物質をパッチテストユニット(絆創膏に皿を載せたもの)に付けて、背中の上部や上腕の外側の外見上皮膚炎のない正常な部位に48時間貼布します。貼布後はシャワー・入浴、スポーツ、発汗の多い動作は控えるようにします。貼布した48時間後に貼ったものをはがし、しばらくしてから赤み、ブツブツ、水ぶくれなどの症状が出現していないかどうか反応を判定し、その後72時間後、1週間後にも判定を行います。当院では、金属アレルギー検査のためのパッチテストと日本接触皮膚炎学会により選定された日本人で陽性率が高い原因物質ジャパニーズスタンダードアレルゲンのうちの21種類を使用したパッチテストパネルを用いた貼付試験を行っております。
かぶれ(接触皮膚炎)の治療は?
原因と考えられる刺激物質やアレルゲンの接触を可能な限り除去することが大切です。既に生じているかぶれによる皮膚炎がみられる場合には、ステロイド外用剤(塗り薬)を使用し、かゆみに対して抗ヒスタミン薬内服(飲み薬)、乾燥症状に対して保湿剤を使用して治療します。症状がひどいときには一時的に低用量のステロイド内服(飲み薬)を併用して治療することもあります。
治療や生活上で注意すべきことはありますか?
かぶれによる症状は治療で一度消えても、原因となるものの接触によって再びかぶれが起きることがありますので、日常生活や仕事場で可能な限り原因物質の接触を避けることが大切です。特に手は露出部位で最もいろいろな物に触ったり、刺激を受ける機会が多いので手袋の着用やバリア機能を高めるために保湿剤を頻繁に使用して保護することも有効です。
脂漏性皮膚炎
脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)とは何ですか?
頭部や顔面などの脂漏部位に、かさかさやフケ、赤みがみられる疾患です。脂漏部位とは皮膚の脂の分泌が多い部位のことであり、具体的には、頭部、生え際、眉毛、鼻の周り、耳の周囲などです。かゆみを伴う場合もあれば、あまりかゆみがみられない場合もあります。かゆみなどの症状が少ない場合は、ただのフケ症や乾燥と思われ、放置されているケースもあります。皮脂の分泌に伴い、増悪するため、慢性的に経過し、繰り返しやすい湿疹の一つです。
脂漏性皮膚炎の原因は?
誰の皮膚にも常在している真菌(カビ)の一つであるマラセチアが、病態に関与しているとされています。マラセチアが皮脂の分解を行う過程で生じる遊離脂肪酸が皮膚への刺激となり、皮膚炎が発症すると考えられています。皮脂のコントロールとマラセチアなどの常在菌へのアプローチが、症状のコントロールに重要です。
脂漏性皮膚炎はどのような人にできやすいですか?
女性より男性に多く、生後1ヶ月前後の乳児と40歳代に多くみられます。乳児の場合は、皮疹は一時的ですが、成人にみられる場合は症状が慢性的に続くことが多く、症状により治療を継続していく必要があります。
脂漏性皮膚炎の治療は?
皮膚炎が起きているため、炎症を抑えるためにステロイドの塗り薬を使用します。頭部や顔面、ときに胸や脇などの体にもみられることがあり、部位により塗り薬の形態や強さを調節していきます。また、前述のように常在している真菌の一種であるマラセチアが関与しており、抗真菌薬を併用する場合もあります。症状が軽度であったり、ステロイドの塗る薬によって炎症治まっている状態であれば、抗真菌薬のみでもコントロール可能です。皮脂のコントロールも重要であり、生活習慣や食事、洗髪などもアドバイスさせて頂きます。
虫刺され・蜂刺され・虫による皮膚炎
虫刺され、蜂(ハチ)刺され、シラミ、虫による皮膚炎にはどのようなものがありますか?
虫によって皮膚の症状を起こす代表的なものには以下のものがあります。
- 蚊、ブヨ、ノミ、ダニなどによる虫刺症(虫刺され): 蚊やブヨなどの虫に刺されることで虫由来の物質に対するアレルギー反応や虫の毒液の中に含まれるヒスタミン類などによってかゆみや赤みを生じます。同じ虫でも人によって反応の程度には個人差があります。
- ハチ(蜂(はち))刺され: 蜂に刺された場合には、局所に痛みを伴って腫れを起こします。ハチに刺された既往のある人や蜂に対してアレルギーがある方では、ハチ刺されによって血圧が低下したり、全身にじんま疹(しん)(ミミズ腫れのような赤み)が出て呼吸が困難になるアナフィラキシーショックを起こすことがあるので注意が必要です。ハチによる即時型アレルギーの診断には、ハチに対する特異的IgEを血液検査で調べることができます。
- 毛虫皮膚炎: ドクガ、チャドクガなどの毒針毛、イラガなどの毒の棘(とげ)が皮膚に刺さると毛虫皮膚炎を起こして、強いかゆみや痛みとともに赤いブツブツを生じます。
- 線状皮膚炎: アオバアリガタハネカクシの虫の中に含まれている体液が皮膚に付着すると灼熱感とともに赤く腫れて水ぶくれを生じます。
- シラミ症: シラミが寄生した他の人の髪の毛と自分の毛が触れあうことなどによって感染し、頭の髪の毛に寄生するアタマジラミや陰毛に寄生するケジラミが皮膚から吸血することでアレルギー反応を生じて激しいかゆみを生じます。診断は拡大鏡を用いて髪の毛に寄生するシラミとその卵が付着しているのを確認します。ケジラミのときは下着や皮膚に糞もみられます。
- マダニ刺咬症: マダニが人の皮膚に吸着して、赤みや腫れなどを起こします。マダニは春から秋にかけて活発になるのでこの時期に咬まれることが多いです。かゆみが少なく、気づかないうちにマダニに咬まれていることもあります。一度咬んだマダニはしばらく頑固にくっついたまま皮膚に留まるので簡単には取れません。
- 疥癬(かいせん): ヒゼンダニという小さなダニが人の皮膚に感染して、強いかゆみを伴う赤いブツブツなどを生じ全身に広がっていきます。疥癬トンネルという線状の白っぽい隆起がみられることが多いです。ダーモスコピーという拡大鏡で疥癬トンネルを確認したり、症状のある皮膚からピンセットなどを使って採取して顕微鏡でヒゼンダニの虫体や卵を確認することで診断できます。疥癬は症状のある皮膚から他の人の皮膚へと感染していきますので注意が必要です。
虫刺されによる皮膚トラブルの治療は?
虫刺されによるかゆみなどを伴う皮膚症状に対しては刺激反応やアレルギー反応を改善させるために副腎皮質ステロイド外用薬(塗り薬)や抗アレルギー薬内服(飲み薬)で治療することが多いです。症状がひどいときは一時的に副腎皮質ステロイド内服で治療したり、二次的に細菌(ばい菌)の感染を起こしている場合には抗菌剤の内服や外用を使うこともあります。
ハチ(蜂)刺されによるアレルギー(アナフィラキシーショック)の対処法は?
ハチ(蜂)に刺されてアナフィラキシーショックを起こしたことがある場合はハチに刺されないように肌をなるべく露出させないことが大切です。万一ハチに刺されてしまったとき用に、エピペンというアレルギーによるショック症状を改善させる携帯用の注射ペンを処方することもあります。
シラミ症(アタマジラミ、ケジラミ)の治療は?
シラミ症の治療は洗髪、櫛(くし)を使ったシラミの卵を除去、フェノトリンというシラミ駆除薬の使用が有効です。シラミ症は治療をしないと髪の毛などが触れることで他の人にも感染していきますので注意が必要です。
マダニに咬まれた場合の治療は?
マダニの場合は噛まれて1日以内であればワセリンを上に厚く塗ることで外れやすくなることがあります。ただし、噛まれて時間がたつとマダニの口器が皮膚の中に強固に食い付いてしまうのでワセリンを使っても取れないことがあります。マダニが皮膚にくっついている場合、またはマダニの虫体を除去した後に口器が皮膚にのめりこんだまま残ってしまった場合には除去する必要があります。場合によっては局所麻酔の注射を用いてマダニが咬まれた皮膚を小さな範囲でくり抜くこともあります。マダニに刺された後に感染症を起こすことがありますので抗菌剤の内服(飲み薬)も処方しています。
疥癬(かいせん)の治療は?
疥癬(かいせん)の治療は、イベルメクチン内服(飲み薬)、フェノトリンローション、クロタミトンクリームの外用(付け薬)などで治療し、かゆみに対しては抗ヒスタミン薬の内服で治療します。
生活で気を付けること
頻繁に虫による皮膚トラブルに悩まれている方は肌の露出をなるべく控え、ダニなどが原因と考えられる場合には殺虫剤の使用、ネコノミなどのノミ類ではペットのノミ駆除も同時に行うことなどが重要です。シラミ症では洗髪を、ヒゼンダニの感染による疥癬(かいせん)では全身の洗浄をしっかりと行うことが大切です。
痒疹(ようしん)
痒疹(ようしん)とはどのような病気ですか? どのような症状がみられますか?
痒疹(ようしん)は、かゆみが非常に強いブツブツとした赤い皮膚のもりあがり(丘疹)が散らばってできる病気です。下肢のすねやお腹まわりにみられることが多く、体中にできることもあります。小児のお子さんにみられる急性の痒疹は虫に刺されることが多い夏に多くみられ、成長とともに改善していきますが、成人の方で慢性の経過をたどる痒疹は長期にみられる傾向があります。
痒疹は何が原因で生じますか?
痒疹はさまざまな原因や背景で起こります。虫刺されがきっかけとなったり、長期間の引っ掻く行為、アトピー性皮膚炎が関係していることもあります。中高年以上で症状がひどい痒疹の場合には、糖尿病や透析をうけている方にみられますことが多いです。また、稀に金属アレルギー、肝臓・胆道系の異常、血液の病気などと関連していることもあります。
痒疹では検査が必要ですか?
痒疹に特徴的な一般的検査所見というのはありませんが、痒疹と関連して糖尿病、腎臓、肝臓などの病気が隠れていることがありますので血液検査で確認できます。また、痒疹と非常によく似た症状がみられる結節型類天疱瘡という自己免疫性の水ぶくれ(水疱)ができる皮膚の難病があり、見た目だけでは区別できないことがありますので自己抗体を血液検査で確認したり、皮膚の組織を採取して病理組織検査を行うための生検を行うこともあります。
痒疹の治療は?
通常、ステロイド外用薬(塗り薬)とかゆみに対して抗ヒスタミン薬内服(飲み薬)で治療します。また、治りにくい場合にはエキシマライトによる紫外線療法を行っており、かゆみを抑える効果もあります。イボのようなかたまりがなかなか消えないときには液体窒素による冷凍凝固療法やビタミンD3外用薬(塗り薬)を併用することもあります。また、症状がひどいときにはステロイド薬や免疫抑制薬のシクロスポリンの内服(飲み薬)を一時的に併用することもあります。
治療・生活上、注意すべきことはありますか?
痒疹はかゆみが強い病気ですが、虫刺され、疲労、ストレス、睡眠不足、長風呂などの体温が暖まる行為などがさらなる悪化原因となることがありますのでなるべく避けることが大切です。また、背景に糖尿病や腎臓・肝臓の病気がある場合には内科の受診と治療をお勧めしています。
かゆみ(皮膚そう痒症)
皮膚のかゆみ・皮膚そう痒(よう)症とはどのような病気ですか?
皮膚のかゆみは掻く(かく)行動を伴う不快な感覚と定義されていますが、このかゆみは皮膚炎・湿疹、かぶれ、虫刺され、蕁麻疹(じんましん)、などさまざまな皮膚の病気でみられます(かゆみを起こす各疾患についてはそれぞれの疾患説明をご参照ください)。かゆみを生じる皮膚の病気のほとんどが、赤みやザラザラ、水ぶくれなどの皮膚の症状を生じるのに対して、「皮膚そう痒症」は皮膚を見てもなにもできていないのにかゆみを感じる病気です。全身いたるところがかゆくなるものと、頭皮や陰部など限られたところだけかゆくなるものがあります。皮膚には一見何もみられないのにかゆみが強いため日常の生活の質を低下させてしまうこともあります。
皮膚そう痒症はどのような原因で起こりますか?
皮膚そう痒症には末梢性のかゆみ(掻き出すと止まらないムズムズ、チクチク、虫が這うようなかゆみ)と中枢性のかゆみ(皮膚全体に湧き上がるようなかゆみ)があります。皮膚そう痒症は一見なにも赤みなどがみられないものと定義されていますが、肌の皮脂欠乏のためにちょっとした刺激でかゆくなることもあります。特にアトピー性皮膚炎の方や冬期の乾燥肌の状態ではかゆみを強く感じやすくなります。また、腎臓、肝臓・胆道、糖尿病、血液疾患、悪性腫瘍、薬剤なども原因になっていることがありますので、皮膚の症状がみられないのにかゆみの程度が強い場合は血液検査で背景となる疾患が隠れていないかを確認することもあります。
皮膚そう痒症の治療は?
血液検査で原因となっている病気がみつかった場合にはその病気に対する治療が必要になります。まれに薬剤が原因となっていることもあり、血液検査の結果などで疑われる場合には薬剤を中止または変更することもあります。また、肌の乾燥も皮膚そう痒症の原因となることが多いので保湿剤の塗り薬をしっかりと塗ることも大切です。かゆみのみで皮膚の症状がみられない場合にはクロタミトン(オイラックス®)やジフェンヒドラミン(レスタミン®)の外用(塗り薬)などで治療することもあります。かゆみの程度が強い場合には抗ヒスタミン薬の内服(飲み薬)も有効です。また、不安や不眠症状がある場合には一時的に抗不安薬や睡眠導入剤を併用することが有効なことがあります。腎不全で透析をうけている方や肝臓の障害がある方にみられる抗ヒスタミン薬が効きにくい強いかゆみの症状に対してはナルフラフィン(レミッチ®)内服(飲み薬)も有効です。
治療・生活上で注意すべきことはありますか?
皮膚の乾燥、飲酒や辛い食べ物の摂取、刺激のある衣服などはかゆみの悪化原因となるので、保湿を常に心がけて、上記の悪化要因となるものをなるべく避けることが大切です。発作的なかゆみに対しては少し冷やしてクーリングすることも有効です。また、爪が伸びていると掻き壊して皮膚を痛めてしまうので爪をよく手入れすることも重要です。また、ストレス、不眠、疲労もかゆみを助長させるので日常の生活において注意が必要です。