麻酔入りボトックスなら痛くない?皮膚科専門医が論文で解説
「ボトックス注射は痛いですか?」は、美容皮膚科でよくいただくご質問です。ボトックスの痛みを軽減するために、近年、ごく少量の局所麻酔(リドカイン)を加える、いわゆる「麻酔入りボトックス」が報告されています。実際に、額のしわ治療を受けた729名の研究では、注射時の痛みが有意に軽減したという報告があります。本記事では、麻酔入りボトックスについて現在わかっていることを解説します。
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01 ボトックス注射の痛みが部位によって違う理由
ボツリヌストキシン注射(ボトックス注射)は、目的によって薬剤を届ける層が異なります。表情じわの治療では表情筋という筋肉の層に、汗を抑える治療では汗腺のある皮膚の浅い層(皮内)に注射します。この違いが、部位ごとの痛みの感じ方に影響します。
| 部位 | 目的 | 痛みに関わる特徴 |
|---|---|---|
| 額・眉間・目尻 | 表情じわ | 注射する箇所が比較的少なく、施術時間は10〜30分程度 |
| エラ(咬筋) | フェイスラインの張り | 厚みのある筋肉に注射するため、針を進める深さがある |
| ワキ・頭皮 | 汗の抑制 | 広い範囲に分けて皮内へ注射するため、注射する回数が多くなる |
額や眉間、目尻のしわ治療は注射する箇所が比較的限られるため、施術そのものは短時間で終わります。一方、ワキや頭皮の汗止め注射は範囲が広く、分けて注射するため回数が多くなります。ワキについてはワキ汗ボトックスの痛みと3つの工夫を解説した記事で詳しくまとめています。
いずれの部位でも、痛みの感じ方には個人差があります。「痛みがない治療」ではありませんが、負担を軽くするための工夫はいくつか報告されています。
02 痛みを左右する3つの要素
ボトックス注射の痛みには、次の3つが関わると考えられています。
- ① 針を刺す回数: チクッとした刺激が何回繰り返されるかは、体感に直結します。額・眉間・目尻は箇所が少なく、ワキや頭皮は回数が多くなります。
- ② 注射する層の深さ: 皮膚の浅い層に入れるのか、厚みのある筋肉まで針を進めるのかで、刺激の伝わり方が変わります。
- ③ 薬液そのものの刺激: 薬液が組織に入るときにも刺激が生じます。次の章で紹介する「薬剤を溶かす液に少量の局所麻酔薬を加える」という考え方は、ここに着目したものです。
03 麻酔入りボトックスとは|薬剤に少量のリドカインを加える
ボツリヌストキシン製剤は、粉末状の薬剤を液体で溶かして(希釈して)から注射します。通常は生理食塩水を使いますが、この希釈液にごく少量の局所麻酔薬(リドカイン)を加える方法が近年報告されています。これがいわゆる「麻酔入りボトックス」です。
2023年に Scientific Reports 誌で報告された二重盲検ランダム化プラセボ対照試験では、額(前額部)のしわ治療を受けた729名を対象に、生理食塩水で希釈した群とリドカインを加えた群が比較されました。その結果、リドカインを加えた群では注射時の痛みが有意に軽減し(P=0.001)、2週後の左右差・追加注射の必要性・眼瞼下垂・複視には差が認められなかったと報告されています。
リドカインは、皮膚科の処置や歯科治療で日常的に使われている局所麻酔薬です。薬液が組織へ入るときの刺激を和らげると考えられていますが、仕組みが完全に解明されているわけではありません。この研究が示したのは、あくまで結果として痛みスコアに有意な差が出たということです。
この研究を読むうえで大切な前提
- 対象は額のしわ治療です: エラやワキ・頭皮の治療は含まれていません。他の部位への応用は「同じ考え方を当てはめている」段階です。
- 効果そのものを測った研究ではありません: 評価したのは注射時の痛みと2週後の合併症です。「効果が落ちない」と断定できる研究ではありません。
- 製剤が異なります: 用いられたのは海外の2ブランドの製剤で、当院で使用する製剤とは異なります。
この方法は一部の医療機関で以前から取り入れられてきましたが、ボツリヌストキシン製剤の添付文書は生理食塩水での溶解を前提としており、日本では適応外使用にあたります。そのため、すべての医療機関で標準的に行われている方法ではありません。
04 当院の痛みへの配慮|できるだけ負担の少ない方法で
当院では、痛みの感じ方に個人差があることを前提に、できるだけ負担の少ない方法で施術できるよう配慮しています。ご希望や部位に合わせて、次のような方法をご相談いただけます。
- 麻酔入りボトックス: 薬剤にごく少量のリドカインを加える方法です。日本では適応外使用にあたるため、事前にご説明したうえで実施しています。ご希望されない場合は生理食塩水のみでの希釈も可能です。
- 外用麻酔クリーム: 施術前に塗布し、皮膚表面の感覚を和らげます(3,000円/税込)。塗布後に待ち時間が必要なため、ご希望の場合は予約時にお知らせください。
- 部位に応じた麻酔の使い分け: 部位によっては、ブロック麻酔をご案内する場合があります。
- 当日のご相談: 痛みへの不安が強い場合は、施術前にお伝えいただければ進め方を調整できます。
効果の目安
効果は1〜2週間かけて徐々に現れ、2週間程度で安定するとされています。持続期間は4〜6か月程度とされていますが、個人差があります。施術時間は、おでこ・頭部で10〜30分程度です。
主な副作用・リスク
すべての方に起こるわけではなく、程度や期間には個人差があります。
- 表情の違和感・左右差・動かしにくさ、まぶたや眉が下がる症状(眼瞼下垂・眉下垂)が生じる場合があります。
- エラ(咬筋)の治療では、噛む力の低下、噛みしめたときの違和感、笑ったときの表情の左右差、頬のこけを感じる場合があります。
- 軽い頭痛・おでこの重さ感・内出血が生じることがあります。内出血は1週間程度で消失するとされています。
- アレルギー反応はまれとされていますが、生じる可能性はあります。
- 抗体による効果の減弱: 繰り返し投与するうちに抗体がつくられ、効果が弱くなる可能性が指摘されています。
受けられない方・注意が必要な方
- 妊娠中・妊娠している可能性のある方・授乳中の方
- 重症筋無力症など、全身性の神経筋接合部の疾患がある方
- 本剤の成分に対して過敏症の既往がある方
- 治療中および治療後一定期間の避妊についても、診察時にご説明します
料金
当院のボトックス注射は自由診療(保険適用外)です。国内承認薬であるアラガン社製ボトックスと、韓国製の国内未承認製剤であるボツラックスをご用意しており、どちらを使用するかは診察のうえでご相談いただけます。
| メニュー | 料金(税込) |
|---|---|
| しわ消しボトックス:顔1部位 | 13,200円〜 |
| エラ小顔ボトックス | 33,000円〜 |
| 汗止めボトックス(額・脇・頭部) | 33,000円〜 |
| 局所麻酔(注射/塗り薬) | 3,000円 |
料金は施術範囲や製剤によって異なるため、詳しくは料金表としわ・たるみ治療のページ、汗の治療については汗止め治療のページをご確認ください。

Q&A よくある質問
Q.痛くないボトックス注射は可能ですか?
「痛みをまったく感じない治療」とお約束することはできません。ただし、薬剤に少量の局所麻酔薬を加える麻酔入りボトックスや、外用麻酔クリームの併用など、負担を軽くする工夫はあります。感じ方には個人差があるため、ご不安な点は診察でご相談ください。
Q.ボトックス注射で一番痛いのはどの部位ですか?
部位ごとに注射する層や回数が異なるため一概には言えませんが、ワキや頭皮の汗止め注射は広い範囲に分けて注射するため、針を刺す回数が多くなります。痛みの感じ方には個人差があるため、部位ごとの進め方は診察でご説明します。
Q.麻酔入りボトックスにすると効果は落ちませんか?
額のしわ治療を受けた729名を対象とした研究では、2週後の左右差・追加注射の必要性・眼瞼下垂・複視に差は認められませんでした。ただしこの研究は、しわの改善効果そのものを主要な評価項目にしたものではありません。判断に迷う場合は診察でお尋ねください。
Q.適応外使用と聞くと不安ですが、断ることはできますか?
はい、可能です。麻酔入りボトックスは日本では添付文書に記載のない適応外使用にあたるため、事前にご説明したうえで実施しています。ご希望されない場合は、生理食塩水のみでの希釈で施術いたします。
参考文献
- Sarkarat F, et al. Effects of lidocaine incorporation (without epinephrine) on pain and 2-week complications of botulinum toxin. Sci Rep. 2023;13:7812.
- 医薬品等を海外から購入しようとされる方へ – 厚生労働省
当院で行うボツリヌストキシン注射は、自由診療(保険適用外)です。当院では国内承認薬であるアラガン社製ボトックスと、韓国製の未承認医薬品であるボツラックスをご用意しています。また、薬剤にリドカイン(局所麻酔薬)を加えて希釈する方法、および承認された効能・効果に含まれない部位・年齢への使用は、いずれも適応外使用にあたります。
- ・未承認である旨: ボツラックスは、国内において医薬品医療機器等法上の承認を受けていない未承認医薬品です。国内承認薬とは異なり、我が国において品質・有効性・安全性の審査を受けたものではありません。
- ・入手経路: 当院医師の判断と責任のもと、個人輸入により入手しています。個人輸入に関する注意事項は、厚生労働省のページをご確認ください。
- ・国内の承認医薬品等の有無: 同種同効の国内承認医薬品として、アラガン社製ボトックスがあります。いずれの製剤を使用するかは診察のうえでご相談いただけます。
- ・諸外国における安全性等: ボツラックスは韓国の食品医薬品安全処(MFDS)の承認を取得している製剤です。ただし、注射治療に共通するリスク(内出血・腫れ・痛み・アレルギー等)が生じる可能性があります。まれではあるものの、注射部位から離れた場所へ毒素が広がり、全身の脱力感・嚥下困難・呼吸困難といった症状が生じたとする報告があります。
- ・部位・年齢に関する適応外使用: 国内承認薬(ボトックスビスタ)の効能・効果は「65歳未満の成人における眉間の表情皺又は目尻の表情皺」とされています。額(前額部)の横じわ、エラ(咬筋)、頭部(頭皮)の多汗症などへの使用、および65歳以上の方への使用は適応外使用にあたります。
- ・希釈方法に関する適応外使用: リドカインを加えた希釈方法は、国内の添付文書に記載のない使用方法です。医師の責任のもとで、事前にご説明したうえで実施しています。ご希望されない場合は生理食塩水のみでの希釈も可能です。
- ・救済制度: 未承認医薬品を用いた治療、および承認薬であっても適応外使用に該当する治療は、医薬品副作用被害救済制度の対象外となります。




